Explosion in Derivatives Trading: Regulatory Measures to Shield Retail Investors
Download PDFデリバティブ取引の爆発的拡大:個人投資家を保護するための規制措置
はじめに
インドの株式市場は、著しい上昇を続けています。The Sensex(30 stock index)およびNifty(50 stock index)は度々新高値を更新し、アメリカと日本に次いで世界で3番目に高価な市場となりました。この前例のない強気市場の流れは、多くの投資家の間でFear of Missing Out/機会逸失への恐れ (FOMO[1])を引き起こし、参入を逸した場合に利益を得る機会を失うのではないかという懸念が広がっています。株式市場を急速な富の獲得への近道と捉える投資家やトレーダーの数は増加しており、その結果、特に先物・オプション取引(F&O)などの複雑な金融商品を用いた投機的な取引が急増しています。何百万人ものユーザーがこうした取引に参加し、その勢いはインド証券市場の最高規制機関であるインド証券取引委員会(SEBI)も注視するようになっています。
インドのデリバティブ市場は、特にF&Oセグメントにおいて、この5年間でかつてない成長を遂げました。この拡大は、技術の進歩、個人投資家の参加の増加、好調な経済環境によって推進され、市場の安定性や投資家保護に関する重要な懸念を引き起こしています[2]。
過去7年間の成長の概要は、以下表のとおりです。
Turnover – Market wide | FY18 | FY19 | FY20 | FY21 | FY22 | FY23 | FY24 |
Ratio of F&O turnover (Premium) to Cash turnover | 2.5 | 2.6 | 2.4 | 1.8 | 2.0 | 2.8 | 2.2 |
Ratio of F&O turnover (Notional) to Cash Market turnover | 19.8 | 27.2 | 35.7 | 39.1 | 94.7 | 266.7 | 367.8 |
Nifty 50 Index* | 10,211.80 | 11,623.90 | 8,597.75 | 14,690.70 | 17,464.75 | 17,359.75 | 22,326.90 |
* Figures in Rupees Lakh Crore
* Rupees one lakh crore is approximately USD 12,000 million
上記データは、SEBIの「指数デリバティブの枠組みを強化し、投資家保護および市場の安定性を向上させるための措置」に関する協議文書(Index Derivative Consultation Paper[3])から引用しています。
実情の把握のためには、デリバティブ取引の性質について理解することが重要です。従来の株式購入において、投資家は市場価値に基づいて株式を購入しますが、デリバティブ取引は、本質的に株式の将来のパフォーマンスを予測して購入を行うものです。投資家は、株式がどのようなパフォーマンスを見せるかに基づいて契約を購入し、予測が正しければ利益を得ますが、そうでなければ損失を被ります。このようなリスクの高い投資方法に対して、SEBIの取締役会メンバーは「もしギャンブルをしたいのであれば、ストレスで糖尿病や高血圧になりたければ、マーケットに参入すると良いでしょう」といった形で警告を発しています[4]。
F&Oの売買高と現物市場の売買高の比率は、2018年度の19.8から、2024年度には367.8にまで驚異的に拡大し、変化の大きさを浮き彫りにしています。同時に、demat口座の数は2024年5月時点で1億5,800万口座にまで急増しており、そのうち1億2,200万口座は2020年4月以降に開設されていることから、新規の市場参加者、特に個人投資家やトレーダーが大幅に増加していることがわかります。
しかしながら、このような急速な市場への参加拡大にもかかわらず、個人投資家は利益を獲得できているわけではありません。SEBIの調査によると、2021-22年度の株式F&Oセグメントで取引を行った個人投資家の89%が損失を被ったことが明らかになりました[5]。また、最近のデータでは、2023-24年度において、国家証券取引所(NSE)の指数デリバティブセグメントで取引を行った925万の個人および個人事業主の約85%が損失を出しています。当該セグメントでの個人投資家の累積取引損失は約62億ドルに達しており、同期間におけるミューチュアルファンドの成長型および株式型スキームへの純流入額の32%を超えています。
これらの深刻な傾向は、さまざまな規制機関や政府関係者の間で懸念を引き起こしています。SEBIは、家計の貯蓄が投機に回されていることに警鐘を鳴らしており、インド準備銀行(RBI)は、投機的取引のために借金をする人々が増えていることを懸念しています[6]。また、インドの財務大臣も、個人によるF&O取引の急増が制御されないままだと、将来的に市場、投資家の心理、家計の財政に影響を及ぼす可能性があると警告しています[7]。
対策
SEBIは、2024年7月30日付の「指数デリバティブ協議文書」を通じて、特にF&O取引に関して、デリバティブ市場の安全性と安定性を向上させるためのいくつかの規制措置を導入しました[8]。
主な提案内容は以下のとおりです。
- 指数デリバティブの最低契約規模の引き上げ
SEBIは、最低契約規模の閾値について、現在の50万ルピー(約6,100ドル)から、段階的に200万ルピー(約24,000ドル)~300万ルピー(約36,200ドル)へと引き上げることを提案しています。これにより、十分な財政的余裕を持つ投資家のみが市場に参加できるようにすることを目指しており、高リスクの取引に巻き込まれ、大きな損失を被る可能性がある小口の個人投資家を保護するためであり、潜在的な損失を吸収できる財政力を持つ参加者に限定することで、より安全な取引環境を整備する意図があります。
- プレミアムの前払い徴収
F&O取引において、プレミアムはオプションを購入する際のコストを指します。「指数デリバティブ協議文書」が発行される前は、オプション購入者に対してプレミアムの前払いを義務付ける規制はなく、オプション価格の変動性が高いことから、リスクの高い取引が行われる状況が助長されていました。当該リスクを軽減し、投資家が自身の財政能力を超えたポジションを持たないよう抑制するため、取引を実行する前に、ブローカーが購入者からオプションプレミアム全額を確保することが提案されています。
SEBIの提案は、取引実行時に全額を支払うことを強く求めています。これは、デフォルトのリスクを軽減し、市場に対するさらなる安全性を確保することを意図しています。
- 証拠金要件の引き上げ
証拠金とは、F&O取引でポジションを開始し維持するために、投資家がブローカーに預けなければならない資金を指しており、金融的な安全策としての役割も果たします。
現行の規制では、取引活動や価格変動の増加にもかかわらず、契約が満期に近づいても証拠金要件は増加しません。このような状況は特にオプション投資家にとって大きなリスクを伴います。当該懸念に対処するため、満期が近づくにつれて証拠金の調整を行うことが提案されています。
満期が近づくと、価格の急変動が発生しやすいため、証拠金を増やすことで、投資家が突然の市場変動に対処する能力を高めることができます。この調整は、特に満期に近い契約が急激な価格変動にさらされる場合に重要です。SEBIは、より高い証拠金を要求することで、これらの変動に伴うリスクを軽減し、投資家だけでなく、急激な価格変動に伴う大きな損失によって引き起こされる潜在的なデフォルトから市場全体を保護することを目指しています。
- 週次オプションの合理化
取引所が提供できる週次満期の数の制限が提案されています。現在は、1週間に複数の満期が設定されており、例えば、NSEでは、MIDCAP NIFTY、FINNIFTY、BANKNIFTY、 NIFTYの4つの週次オプション満期がそれぞれ月曜日、火曜日、水曜日、木曜日に設定されており、市場活動とボラティリティの増加により市場予測が困難な状況になっています。取引所において、満期を1週間に1つといった形で制限することで、ボラティリティを抑制し、より安定した取引環境を育むことを目指しています。
我々の見解
デリバティブ取引の急増にはいくつかの要因が影響しています。使いやすい株式取引アプリや複雑なデリバティブ・プラットフォームの普及により、金融市場へのアクセスが民主化されました。これらは、安価もしくはゼロ手数料モデルを採用し、デジタル決済システムと統合されているため、新しい参加者が市場にアクセスしやすくなっています。また、ソーシャルメディア上における「ファイナンシャル・インフルエンサー」(Finfluencer)が登場し、このトレンドに拍車をかけています。
これにより、何百万人もの新規参加者が市場に参入することになりましたが、同時に大きな課題も生じています。プラットフォームの多くにおいて、堅固なリスク管理ツールや安全策が欠けており、経験の浅い投資家が十分に理解していない高リスク商品にさらされやすくなっています。当該リスクを軽減するため、SEBIは、ソーシャルメディアでの金融アドバイスに関する明確なガイドラインの策定、資格を持つアドバイザーの認証システムの導入、監視能力の強化、等を検討しています。
デリバティブ取引への個人投資家の参入増加は、単に規制の欠如が原因ではなく、より広範に、経済的・社会的要因を反映してもいます。従来の投資オプションを超えた魅力的な代替投資の不足や、デリバティブを短期間での財産形成の手段と見なす個人投資家の行動が、感情に基づく意思決定を促し、損失のサイクルを生み出し、結果としてシステミックリスクを引き起こしているのです。
好調なインド株式市場の相場が富の創出の機会をもたらした一方で、個人投資家、特にデリバティブ市場においては、重大なリスクにさらされることになりました。規制当局や政策立案者にとっての課題は、市場の成長を促進しつつ、過度な投機から投資家を保護するバランスを取ることです。市場が進化し続ける中、投資家にリスクについて教育し、広範な金融損失を防ぐため、強力な安全策を講じることが不可欠です。
Authors: Deni Shah and Urja Joshi
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[1] John Jenning, “Investors, Don’t Succumb To The Fear Of Missing Out” https://www.forbes.com/sites/johnjennings/2021/02/17/investors-dont-succumb-to-the-fear-of-missing-out/
[2] Economic Survey 2023-24, “Monetary Management and Financial Intermediation: Stability is the Watchword” https://www.indiabudget.gov.in/economicsurvey/doc/eschapter/echap02.pdf
[3] SEBI, ‘Consultation Paper on Measures to strengthen index derivatives framework for increased Investor protection and Market stability” https://www.sebi.gov.in/reports-and-statistics/reports/jul-2024/consultation-paper-on-measures-to-strengthen-index-derivatives-framework-for-increased-investor-protection-and-market-stability_85279.html
[4] Economic Times, “India’s options trading boom hides billions of losses for retail traders”, https://economictimes.indiatimes.com/markets/options/indias-options-trading-boom-hides-billions-of-losses-for-retail-traders/articleshow/107653413.cms?from=mdr
[5]SEBI, “Study – Analysis of Profit and Loss of Individual Traders dealing in Equity F&O Segment”, https://www.sebi.gov.in/reports-and-statistics/research/jan-2023/study-analysis-of-profit-and-loss-of-individual-traders-dealing-in-equity-fando-segment_67525.html
[6] Times of India, “Finance Sector governance needs highest priority says RBI Governor” https://timesofindia.indiatimes.com/business/india-business/finance-sector-governance-needs-highest-priority-says-rbi-governor/articleshow/111329043.cms
[7] The Hindu, “Unchecked explosion in retail F&O trading can create challenges”, https://www.thehindu.com/business/unchecked-explosion-in-retail-fo-trading-can-create-challenges-fm/article68175441.ece
[8] Id at 3