はじめに
地方債とは、地方政府が公共インフラ整備のための資金調達を目的として発行する債務証券であり、地域社会の発展目標と資本市場を結ぶ重要な架け橋として、長年にわたり重要な役割を果たしてきました。米国では、2024年末時点での未償還残高は4.2兆米ドル(USD 4.2 trillion)を超え、数千におよぶ地方自治体において、学校、高速道路、上下水道、病院等の整備資金として活用されています。
一方で、米国の経験からは重要な教訓も得られます。例えば、1983年に発生したワシントン公益電力供給システム(Washington Public Power Supply System)による22億5,000万米ドル(USD 2.25 billion)規模のデフォルトや2013年のデトロイト市による米国史上最大規模の自治体破綻として知られる連邦破産法第9章に基づく再建手続きの申請などが挙げられます。
これらの事例は、情報開示基準、財政監督、ならびに強固な法的枠組みが、投資家の信頼を確保するための基盤であることを示しています。
インドは現在、重大な転換点を迎えています。2050年までに4億1,600万人が都市部に移住すると見込まれており、都市地方公共団体(Urban Local Bodies)に対する財政上の要請は極めて大きいものがあります。1992年第74次憲法改正法(Seventy-Fourth Constitutional Amendment Act, 1992)により都市行政が地方自治体に移譲されましたが、財政基盤の整備はその進展に遅れを取っています。
証券取引委員会(SEBI)による2015年地方債証券の発行および上場に関する規則[以下、「ILMDS規則(ILMDS Regulations)」]は、インドにおいて格付けを取得した上場地方債を初めて可能にした画期的な制度上の転換点となりました。2017年のプネ(Pune Municipal Corporation)による200クロールルピー[₹200 crore、約2,085万米ドル(approx. USD 20.85 million)]規模の地方債発行は、本モデルの商業的実行可能性を示すものであり、2026-27年度連邦予算における財政上のインセンティブにより、市場参加がさらに拡大する可能性があります。 本資料は、地方債という現在も発展段階にある資産クラスに関わることを検討する自治体、国内投資家および外国投資家が理解すべき主要な論点を整理したものです。
Q1. 地方債(地方債証券)とはどのようなものであり、その目的は何ですか?
地方債証券(Municipal Debt Securities)は、一般に地方債(Municipal Bonds)と称され、市町村等の地方公共団体が道路、上下水道、衛生設備、都市開発等の公共インフラ整備に要する資金を調達するために発行する債務証券です。予算配分や補助金とは異なり、地方債は都市地方公共団体(ULBs)が資本市場へ直接アクセスすることを可能とし、特定の収入源または組成されたエスクロー(信託)メカニズムを通じて投資家に元利金を返済するものです。調達資金は予算財源を補完し、自治体が都市インフラを迅速に整備することを可能にします。
インドの地方債市場は、ILMDS規則に基づきインド証券取引委員会(SEBI)によって規制されています。市場は着実に成長しており、2025年には9件の地方債発行が行われ、2024年より6件増加しました。2026-27年度連邦予算では、1,000クロールルピー[Rs. 1,000 crore、約1億425万米ドル(approx. USD 104.25 million)]を超える地方債発行に対し、100クロールルピー[Rs. 100 crore、約1,042万米ドル(approx. USD 10.42 million)]の準補助金(quasi-grant)を提供することで、発行をさらに促進しています。
Q2. インドにおいて地方債を規制する機関はどこで、主要な規制は何ですか?
地方債はSEBIが規制しており、SEBIは1992年SEBI法(SEBI Act, 1992)に基づき、すべての債券発行について管轄権を有しています。中核となる規制はILMDS規則であり、同規則は地方債証券の発行および上場に関する包括的な枠組みを導入したものです。主な特徴は以下のとおりです。
- 発行適格者は、中央法または州法に基づき設立された市町村、法定機関、委員会、法人、当局、信託または機関、ならびに州政府または中央政府が告示した特別目的事業体(SPV)を含みます。
- 調達資金は、インド憲法第243W条のもとで定められるインフラ事業、都市開発目的およびその他同条に規定される目的に充当しなければなりません。
- 債券は、公募または機関投資家に対する私募(プライベート・プレースメント)の方法により発行することができます。
- 発行体は、一つ以上の認定証券取引所への上場を行うとともに、上場後の継続的な情報開示義務を遵守しなければなりません。
SEBIはILMDS規則を補完するため、各種通達およびガイドラインを発出しており、そのなかには、非転換証券、証券化債務商品、セキュリティ・レシート、地方債証券およびコマーシャルペーパーの発行および上場に関する2025年マスター・サーキュラー(2025 Master Circular for issue and listing of Non-Convertible Securities, Securitised Debt Instruments, Security Receipts, Municipal Debt Securities and Commercial Paper)が含まれます。
Q3. 地方債の発行主体および適格要件は何ですか?
ILMDS規則第4条に基づき、発行体はドラフト目論見書または募集説明書の提出日において以下の要件を満たしていなければなりません。
- 発行体がその設立文書上、債券発行を行う資格を有すること。
- 会計書類が、全国市町村会計マニュアル(National Municipal Accounts Manual:NMAM)または同等の州レベルのマニュアルに従って作成されていること。
- 過去365日以内に債務不履行がないこと。
- 発行体、そのプロモーターまたは取締役に対するSEBIの制限、禁止または排除命令が現に発効していないこと。
- 発行体、そのプロモーターおよび取締役が「悪意ある債務不履行者(willful defaulters)」または「経済犯罪逃亡者(fugitive economic offenders)」として指定されていないこと。
- SEBIに登録された信用格付機関(Credit Rating Agency)から信用格付けを取得していること(同規則第4B条)。
- SEBIに登録された社債受託者(Debenture Trustee)が選任されていること(同規則第4D条)。
公募(Regulation 5)においては、追加要件として、発行体が直前3事業年度において剰余収入を計上していることが求められています。また、法人である場合は、そのいずれの事業年度においても純資産がマイナスでないことが必要とされます。
Q4. 地方債発行に必要な政府承認、関係機関および手続きはどのようなものですか?また、想定されるスケジュールはどの程度ですか?
必要な承認
- 内部承認
自治体の意思決定機関(例:公選議会)は、1888年グレーター・ムンバイ市法人法(Municipal Corporation of Greater Mumbai Act, 1888)、1976年カルナータカ州市法人法(Karnataka Municipal Corporations Act, 1976)、1955年グレーター・ハイデラバード市法人法(Greater Hyderabad Municipal Corporation Act, 1955)等の適用される州市町村法に従い、決議により地方債の発行を承認しなければなりません。 - 州政府の同意
一部の州の地方自治体法では、自治体が債務を負担し、または資本市場において借入れを行う前に、州政府の事前承認、認可または異議なし証明(no-objection)の取得が求められます。この要件は州ごとに異なります。 - SEBI発行前コンプライアンス
発行体は、ILMDS規則に定めるすべての適格要件および情報開示要件を満たし、必要に応じてSEBIおよび/または認定証券取引所に所定の書類を提出しなければなりません。
必要な仲介業者
- 主幹事(Lead Manager)/マーチャント・バンカー(Merchant Banker)
ILMDS規則第6A条に基づきSEBIに登録されたマーチャント・バンカーであり、デュー・ディリジェンスの実施、目論見書または募集説明書の作成、デュー・ディリジェンス証明書をSEBIに提出することによる情報開示内容の確認、および他のすべての仲介業者との調整を担います。主幹事は、目論見書の内容について主要な規制上の責任を負います。 - 社債受託者(Debenture Trustee)
SEBI登録済みの社債受託者を、発行申込期間の開始前に選任しなければなりません(同規則第4D条)。受託者は、構造化支払メカニズム(Structured Payment Mechanism)、エスクロー口座および継続的な規制遵守状況を監視します。 - 信用格付機関(Credit Rating Agency)
発行開始前に、少なくとも1社のSEBI登録済み信用格付機関による格付を取得する必要があります(同規則第4B条)。 - 証券代理人・振替代理人(Registrar and Transfer Agent)
申込みの処理、割当および非物質化(dematerialisation)手続きを担当するために選任されます。
おおよそのスケジュール
発行手続き開始から上場まで、通常4〜6か月を要します。
Q5. インドの地方債における主要な財務条件はどのようなものですか?
ILMDS枠組みのもとで実施された地方債の発行に関する公開情報によれば、以下のとおりです。
- 調達資金の使途
調達資金は、目論見書に開示された特定のインフラ事業または公益事業に充当されなければなりません。対象となる事業には、上水道・下水処理施設、都市交通・モビリティインフラ、スマートシティ・都市再生事業、雨水排水システム等が含まれます。 - クーポンレート(利率)
クーポンレートは、発行体の信用格付け、市場環境および信用補完措置によって異なります。インドの地方債における利率は、概ね年率8.0〜9.0%となっています。 - 償還期間
償還期間は3年から10年の範囲となっています。2019年のILMDS規則改正により、最低償還期間に関する要件が緩和され、より柔軟な債券発行が可能となりました。 - 発行規模
個別の発行規模は、25クロールルピー[Rs. 25 crore、約260万米ドル(approx. USD 2.60 million)]から244クロールルピー[Rs. 244 crore、約2,542万米ドル(approx. USD 25.42 million)]の範囲となっています。私募の場合、ILMDS規則に基づき、投資家1名あたりの最低申込金額は10ラークルピー[Rs. 10 lakh、約1万425米ドル(approx. USD 10,425)]とされています。 - 発行形式
すべての地方債は非物質化形式(dematerialised form)で発行され、ボンベイ証券取引所(Bombay Stock Exchange Limited:BSE)またはナショナル証券取引所(National Stock Exchange of India Limited:NSE)への上場が義務付けられています。
Q6. 地方債は政府保証の対象となりますか。また、適用される担保および信用補完措置にはどのようなものですか?
インドの地方債は、米国の一般財源保証債(General Obligation:GO)における「完全な信頼と信用(full faith and credit)」という概念に基づく、発行自治体の全面的な信用・財政力による裏付けを、自動的または法令上当然に有するものではありません。
債券保有者の信用保護は、エスクロー口座、構造化された支払メカニズム、その他の信用補完措置といった仕組みによって提供されており、また歴史的には政府による支援措置を組み合わせることによって確保されてきました。
- 構造化支払メカニズム(Structured Payment Mechanism:SPM)およびエスクロー
2019年改正後のILMDS規則第19条に基づき、すべての発行体は、債務返済に係る資金の受領および払い出しの主要な仕組みとして、「担保設定なしのエスクロー口座(no-lien escrow account)」を設置しなければなりません。当該エスクロー口座は社債受託者(Debenture Trustee)によって監視され、社債受託者の利益のために信託証書(trust deed)が締結されます。
- 信用補完の仕組み
ILMDS規則は、州政府保証、部分保証、信用状(Letter of Credit)およびコンフォートレター(Letter of Comfort)を含む信用補完措置を明示的に認めています。過去には、一部の発行について州政府保証が付されており、例えば、1997年のバンガロール市法人(Bangalore Municipal Corporation)債(カルナータカ州政府による支援)や2018年のアマラヴァティ(Amravati)債[アンドラ・プラデシュ州首都圏開発局(Andhra Pradesh Capital Region Development Authority)による発行で、アンドラ・プラデシュ州政府による無条件かつ取消不能の保証が付されたもの]が挙げられます。
- 2015年以降の状況
ILMDS規則のもとで行われた発行の大部分は、無条件の政府保証ではなく、構造化された支払メカニズムおよびエスクローの仕組みに依拠しています。中央政府による支援は、主として改革連動型インセンティブおよびAMRUT・AMRUT 2.0等の都市インフラ資金調達プログラムを通じて提供されており、債券保有者に対する直接的な支払保証という形ではありません。
注記:州法は一般的にULBsが不動産および税収・非税収入を担保として差し入れることを認めていますが、デフォルト発生時における当該担保権の実行には、実務上の困難が伴います。これは、標準化された裁判所を通じた執行メカニズムが存在せず、ULBsの資金の差押えには通常、州政府への申請が必要となるためです。
Q7. 地方債の発行にあたり信用格付けの取得は義務付けられていますか?また、どの格付機関が認められていますか?
はい。ILMDS規則第4B条のもと、少なくとも1社のSEBI登録済み信用格付機関(Credit Rating Agency:CRA)からの信用格付けを取得することは、すべての発行における必須の前提条件とされています。公募の場合、格付けは目論見書において開示されなければなりません。複数のCRAから格付けを取得した場合には、未採用の格付けを含むすべての格付けを開示しなければなりません。
CRAは1999年SEBI(信用格付機関)規則に基づき登録されています。地方債市場において活動する主なSEBI登録済みCRAとしては、CRISIL Ratings Limited、ICRA Limited、CARE Ratings Limited、India Ratings and Research Private Limited、およびBrickwork Ratings India Private Limitedが挙げられます。
低い信用格付けを有する地方債発行体が公募市場にアクセスすることは法律上禁止されていませんが、実務上、このような発行体は投資家需要が限定的であり、信用補完措置を活用するか、機関投資家向けの私募発行を選択することが多くなっています。
Q8. 社債受託者(Debenture Trustee)の役割は何であり、債券保有者を代表して行動するためにどのような権限を有していますか?
ILMDS規則第4D条のもと、各発行の募集開始前に、SEBIに登録された社債受託者(Debenture Trustee:DT)を選任することが義務付けられています。
選任は1993年SEBI(社債受託者)規則に準拠します。DTの適格者には、指定商業銀行(scheduled commercial banks)、公的金融機関、保険会社、およびSEBIの純資産・インフラ要件を満たす法人が含まれます。
社債受託者の主要な機能は以下のとおりです。
- デュー・ディリジェンス証明書
公募の募集開始前に、DTは関連書類を精査したこと、および発行体が債務返済を行う能力を有することを確認するデュー・ディリジェンス証明書をSEBIに提出します。 - エスクロー口座およびSPMの監視
DTは、債券の存続期間を通じて、担保設定なしのエスクロー口座、構造化支払機構(SPM)およびすべての債務返済に関する仕組みを監視します。 - 継続的なコンプライアンス監督
DTは、発行体がILMDS規則、信託証書および取引書類を遵守していることを監督し、重要事象に関する情報開示が継続的に行われていることを確保します。 - 債券保有者の保護
DTはすべての債券保有者を代表して行動します。支払不履行が発生した場合、DTは速やかに是正措置を講じることが求められており、その内容には、債券保有者集会の招集、信託証書およびエスクローの取決めの執行、ならびに規制当局および政府機関に対する意見表明が含まれます。
Q9. 地方債には誰が投資することができ、最低投資金額はいくらに設定されていますか?
インドの地方債は、適用されるSEBI、FEMA(外国為替管理法)、RBI(インド準備銀行)の規制および発行体固有の条件に従うことを前提として、幅広い投資家による投資が可能です。
- 個人投資家(居住者個人)
公募への申込みおよび認定証券取引所における流通市場での購入が認められています。インド市場における公募では、通常、1申込みあたりの最低申込金額は1万ルピー[Rs. 10,000、約104米ドル(approx. USD 104)]程度に設定されていますが、発行ごとに異なる場合があります。 - 機関投資家
適格機関購入者(Qualified Institutional Buyers:QIBs)、銀行、保険会社、年金基金、投資信託、代替投資ファンド(Alternative Investment Funds:AIFs)およびノンバンク金融会社(NBFCs)は、公募および私募の双方を通じて投資することができます。私募の場合、ILMDS規則のもと、投資家1名あたりの最低申込金額は100万ルピー[Rs. 10,00,000、約10,425米ドル(approx. USD 10,425)]とされています。 - 非居住インド人(Non-Resident Indians:NRIs)
FEMAおよびRBIの規制に従うことを条件として、一般的に投資が認められています。投資は通常、NRE口座またはNRO口座を通じて行われます。 - 外国ポートフォリオ投資家(Foreign Portfolio Investors:FPIs)
2019年SEBI(FPI)規則に基づき登録されたFPIsは、RBIが定める債務投資限度額[州開発ローン(State Development Loan:SDL)限度額に連動]の範囲内で、上場地方債に投資することができます。FPIによる投資は、資金使途制限およびSEBIの上場要件の適用を受けます。
Q10. 投資家はどのようにして地方債の申込みまたは購入を行うことができますか?
投資家は、以下の2つの経路を通じて地方債に投資することができます。
- 発行市場(公募発行)
個人・機関投資家は、申込期間中にSEBIが定めるASBA[ブロックされた金額による申込方式(Application Supported by Blocked Amount)]を通じて申込みを行うことができます。申込みは、登録銀行またはSEBI登録済みの証券会社を経由し、インターネットバンキングまたはUPI対応の決済ゲートウェイを利用して行われます。申込みの処理は、発行体の登録機関・振替代理人(Registrar and Transfer Agent)が担当します。 - 流通市場
上場地方債は、CDSLまたはNSDLに保有されるデマット口座を利用し、SEBI登録済みの証券会社を通じて、BSE LimitedまたはNSE Limitedで購入することができます。
私募の場合、参加は機関投資家および十分な専門的知識・経験を有する投資家に限定され、これらの投資家は私募プロセスを通じて発行体と直接条件交渉を行います。
Q11. 地方債は証券取引所に上場されますか?また、流通市場における流動性はどの程度ですか?
ILMDS規則のもとで発行されるすべての地方債は、一つまたは複数の認定証券取引所(BSEまたはNSE)への上場が義務付けられています。債券は電子化された形式(dematerialised form)で保有・振替され、主として証券取引所の卸売債券市場(Wholesale Debt Market:WDM)において取引されます。
インドの地方債の流通市場は、現在、国債や社債と比較して相対的に未発達であり、取引が低調で流動性も限定的な状況にあります。大多数の債券は機関投資家によって満期まで保有されており、個人投資家にとっては満期前に適正価格でポジションを売却することが困難な場合があります。
なお、NSEはNiftyインド地方債指数(Nifty India Municipal Bond Index)を立ち上げており、地方債ポートフォリオのパフォーマンスに関する統計を提供しています。
Q12. 債券上場後、上場発行体が継続的に履行すべき情報開示およびコンプライアンス上の義務には、どのようなものがありますか?
上場後、発行体は、ILMDS規則および関連する証券取引所との上場契約に基づき、継続的な義務を負います。主要な義務は以下のとおりです。
- 半期財務結果
未監査の財務結果は、各半期末から45日以内に証券取引所へ提出しなければなりません。 - 年次監査済み財務諸表
監査済み財務結果は、監査報告書とともに、事業年度末から60日以内に提出しなければなりません。 - 重要事象の情報開示
発行体は、支払不履行・遅延、重大な訴訟、収益状況の悪化、エスクロー/SPMの変更、財務状況の重大な変化など、地方債の元利金返済能力に影響を与える可能性のある重要事象または価格感応情報を速やかに開示しなければなりません。 - 信用格付けの情報開示
格付けは少なくとも年1回見直されなければなりません。付与された格付けの改訂、停止または撤回は、証券取引所に対して速やかに開示しなければなりません。当初発行時の格付けから2段階以上の格下げが行われた場合、その理由および改善措置の開示が求められます。 - 利払準備口座
発行体は、地方債の存続期間を通じて、1年間の利払義務相当額を指定口座に維持しなければなりません。 - 調達資金の使途開示
発行体は、調達資金の使途状況および募集書類に記載された目的からの重大な乖離を開示しなければなりません。 - 年次報告書
年次報告書には、貸借対照表、収支計算書(income and expenditure account)、キャッシュフロー計算書、収入・支出計算書(receipts and payments account)、財務業績指標および監査報告書を含めなければなりません
Q13. インドにおいて地方債は非課税扱いとなりますか?また、1961年所得税法のもとで、利息収入はどのように課税されますか?
適用法令に関する注記
1961年所得税法(以下、「ITA 1961」)は2026年4月1日付で廃止され、2025年所得税法(以下、「ITA 2025」)に置き換えられました。以下の法令参照はすべてITA 2025に基づくものであり、相互参照の便宜のため、括弧内にITA 1961における対応条項を記載しています。
税務上の取扱いは、個別の発行条件および中央政府による非課税措置を定める通知が発出されているか否かによって異なります。
- 原則的な取扱い
ILMDS規則に基づき発行された地方債の利息収入は、投資家において「その他の所得(Income from Other Sources)」の区分で課税対象となります。直近の上場発行のほとんど(プネ、ハイデラバード、インドール、ガジアバード、ラクナウ)は、課税対象となる債券として組成されています。 - ITA 2025第11条とあわせて適用される別表II(表第11項)/ITA 1961第10条(15)
ITA 2025第11条とあわせて適用される別表II(表第11項)は、中央政府が通知した特定の証券、債券および貯蓄商品に係る利息を非課税としています。従来、このような非課税措置は、主として特定の国債および道路公団(NHAI)、農村電化公社(REC)、インド鉄道金融公社(IRFC)、住宅・都市開発公社(HUDCO)等の公共部門または政府支援を受ける機関が発行する債券に適用されてきました。 - ITA 2025第11条とあわせて適用される別表II(表第13項)/ITA 1961第10条(15)(iid)
ITA 2025第11条とあわせて適用される別表II(表第13項)は、官報において中央政府が指定および通知した地方公共団体または州プール型金融機関(State Pooled Finance Entity)が発行する債券に係る利息を非課税としています。
投資家は、目論見書および関連する政府通知において明示的に別段の定めがない限り、利息収入は適用される税率に基づき課税されることを前提とすべきです。
Q14. 地方債が満期前に流通市場で売却された場合、譲渡所得に対する課税はどのように適用されますか?
投資家が地方債を満期前に売却した場合、2025年所得税法のもとで、以下のとおり譲渡所得に対する課税が適用されます。
- 上場地方債
保有期間が12か月以内の場合、短期譲渡所得(Short-Term Capital Gains:STCG)として、投資家に適用される税率区分(スラブレート)に基づき課税されます。保有期間が12か月を超える場合、長期譲渡所得(Long-Term Capital Gains:LTCG)として取り扱われ、2024年7月23日以降の譲渡については、12.5%(インデクセーション適用なし)の税率で課税されます[2024年財政法(Finance Act 2024)による譲渡所得課税制度の改正に基づく]。 - 非上場地方債(私募債)
ITA 2025第76条に基づき、2024年7月23日以降に行われる非上場債券の譲渡、償還または満期によって生じる利益は、保有期間にかかわらず短期譲渡所得(Short-Term Capital Gains)として取り扱われます。また、当該利益は、投資家の属性に応じて、適用される税率区分(スラブレート)または法人税率に基づき課税されます。なお、この取扱いは、2024年財政法(Finance Act 2024)による譲渡所得課税制度の改正に基づくものです。 - ITA 2025第11条/ITA 1961第10条に基づく非課税措置
ITA 2025第11条/ITA 1961第10条に基づく利息に係る非課税措置は、利息収入にのみ適用され、売買差益には適用されません。流通市場での売却により生じる譲渡所得は、当該債券が利息について非課税である場合であっても課税対象となります。 - 経過利息の取扱い
利払日間に債券を売却した場合、売却価格に含まれる経過利息は、通常、「その他の所得(Income from Other Sources)」として適用される税率区分(スラブレート)に基づき課税されます。残余の価格上昇または下落分は譲渡所得として取り扱われます
Q15. 地方債の利払いにTDS(源泉徴収税)が適用されますか。また、居住者投資家と非居住者投資家では、どのような違いがありますか?
TDS(源泉徴収税)は地方債の利息に適用されますが、居住者投資家と非居住者投資家には異なる規定が適用されます。
- 居住者投資家[ITA 2025第393条(1)/ITA 1961第193条]
地方公共団体が発行する債券に係るすべての利息の支払いに対して、10%(サーチャージおよびセスを加算)のTDSが義務付けられています。2023年4月1日以降、2023年財政法により、デマット形式で保有される上場債券に対する従来の非課税措置が廃止され、TDS規定は、上場の有無および保有形態にかかわらず、すべての債券に適用されることとなりました。2025年度連邦予算では、1万ルピー(約104米ドル)を下回る利息支払についてはTDSを源泉徴収しないとする最低基準額が提案されています。投資家は、総所得が課税限度額未満である場合、2026年所得税規則(Income Tax Rules 2026)第211条に基づくForm 121を提出することによりTDSの控除を受けないようにすることができ、またはITA 2025第395条(1)に基づき、TDSをゼロ税率または低減税率で控除することを認める証明書を取得することができます。 - 非居住者投資家、NRIおよびFPI[ITA 2025第393条(2)/ITA 1961第195条]
ITA 2025第393条(1)/ITA 1961第193条は非居住者には適用されません。非居住者に係るTDSはITA 2025第393条(2)/ITA 1961第195条により規律され、利息収入(特定の類型を除く)に対する税は「現行レート(rates in force)」により源泉徴収されます。現行レートとは、ITA 2025に定める適用税率、または適用される租税条約(Double Taxation Avoidance Agreement:DTAA)に基づき利用可能なより低い税率のうち、非居住者投資家にとってより有利なものを意味します。ただし、非居住者投資家がITA 2025第210条/ITA 1961第115AD条に定める外国機関投資家(Foreign Institutional Investor)に該当する場合、当該利息収入には、20%(サーチャージおよびセスを加算)または適用されるDTAAに基づき利用可能な税率のうち、非居住者投資家にとってより有利な税率が適用されます。非居住者投資家、FPIおよびNRIは、税務居住証明書(Tax Residency Certificate)その他のフォーム・書類を源泉徴収義務者に提出することを条件として、DTAAの適用を受けることができます。
Q16. インドの地方債に対する外国投資を規制するFEMAの枠組みはどのようなものですか?
インドの地方債に対する外国投資は、以下の多層的な規制枠組みにより規制されています。
- 1999年外国為替管理法(Foreign Exchange Management Act:FEMA)
RBIが管轄するFEMAは、インド国外居住者による資本勘定取引に関する包括的な枠組みを提供しています。FEMA第6条は、同条に基づき制定された規則とあわせて、インドの債務証券への投資を含む許容される資本勘定取引を規制しています。 - 2019年外国為替管理(債務商品)規則(FEMA Debt Regulations)
これらの規則は、地方公共団体、インド企業およびSPVが発行する債券を含む、非居住者によるインド国内の債務商品の取得および譲渡を規制しています。地方債は、これらの規則のもとで許容される債務商品に該当します。 - 2025年インド準備銀行(非居住者による債務商品への投資)に関するマスター・ディレクション
これらのマスター・ディレクションは、NRI、FPIおよびOCI(海外インド市民)を含む非居住者による地方債を含む債務商品への投資に関して、過去に発出された各種通達を統合したものです。地方債への投資は、州開発ローン(State Development Loans:SDL)の投資上限の対象となります。 - 2019年SEBI(外国ポートフォリオ投資家)規則(FPI規則)
上場地方債を含むインド証券に投資するFPIは、指定預託機関参加者(Designated Depository Participant:DDP)を通じてSEBIに登録する必要があります。これらの規則は、FPIの適格性基準、登録要件および継続的義務を規定しています。
Q17. インドの地方債に投資する外国ポートフォリオ投資家(FPI)には、どのような投資限度額および条件が適用されますか?
インドの地方債に対するFPI投資には、以下の投資限度額および条件が適用されます。
- 債務商品としての分類
地方債は、FEMAおよびRBIの規制上、債務商品として取り扱われます。FPIによる投資は、RBIが随時定める債務投資総枠の適用対象となります。 - SDL連動型投資限度額
FPIの債務投資限度額において、地方債は州開発ローン(State Development Loans:SDL)の一部として分類されます。FPIは、RBIが定めるSDL連動型の投資上限の範囲内で、上場地方債に投資することが認められています。 - SEBIおよび預託機関によるモニタリング
SEBIおよび預託機関(NSDLおよびCDSL)は、FPIによる投資総額を監視しており、適用される投資限度額に達した場合には、当該カテゴリーにおけるFPIによる追加取得を制限することがあります。 - 証券会社を通じた投資要件
FPIによる証券への投資は、SEBIに登録された証券会社を通じてのみ認められます。
SDLおよび地方債に適用されるものを含むFPIの債務投資限度額は、RBIにより随時変更される可能性があります。投資家は、投資に先立ち、RBIおよびSEBIの公表する最新の公式資料に基づき、適用される限度額を確認することが推奨されます。
Q18. NRIはインドの地方債に投資することができますか。また、国外送金(リパトリエーション)に関する規則はどのように定められていますか?
NRIは2019年FEMA(債務商品)規則に従い、インドの地方債に投資することが認められています。
- 送金可能ベース(NRE口座)
非居住者(対外)ルピー口座(Non-Resident (External) Rupee Account: NRE口座)を通じた投資は、全額が海外へ送金可能(リパトリアブル)です。NRE口座は、NRIおよびインド系海外居住者(Persons of Indian Origin: PIOs)のみが公認ディーラー銀行に開設・維持することができます。元本投資および未収利息収入は、2016年外国為替管理(預金)規則の別表1のもと、適用されるTDS控除およびFEMAコンプライアンスを条件として、インド国外へ自由に送金することができます。 - 送金不可ベース(NRO口座)
NRO口座(Non-Resident Ordinary Rupee Account:非居住者ルピー口座)は、インド国外居住者がルピー建ての正当な取引を行うために開設することができます。NRO口座を通じた投資については、2016年外国為替管理(資産送金)規則のもと、年間100万米ドル(適用税額控除後)を上限として送金が認められています。NRO口座からの各送金にあたっては、適用税の納付を確認する公認会計士の証明書が必要となります。 - 公認ディーラーを通じた送金
すべての外国投資は、インドの公認ディーラー銀行、またはインド準備銀行が公認した銀行を通じて行わなければなりません。認められた経路以外での投資はFEMAに違反するものとなり、FEMA第13条のもとで制裁が科される可能性があります。 - 税務上の取扱い
NRIが地方債から得る利息収入は、ITA 2025第393条(2)(旧ITA 1961第195条)に基づきTDSの対象となります(Q14参照)。DTAAの適用は、税務居住証明書の提出を含む同条約に定める条件を充足することを要件として認められます。
Q19. 外国投資家に適用されるKYC(顧客確認)、AML(マネー・ローンダリング防止)、報告およびコンプライアンス義務はどのようなものですか?また、キャピタルゲインおよび投資収益はどのように国外送金(リパトリエーション)されますか?
外国投資家(FPIおよびNRI)は、以下の規制上の要件を満たし、関連する義務を遵守しなければなりません。
- FPI登録およびKYC(顧客確認)
FPIは、指定預託機関参加者(DDP)が発行する登録証明書を取得することにより、2019年SEBI(FPI)規則[SEBI (FPI) Regulations, 2019]に基づいてSEBIに登録しなければなりません。登録には、法人設立書類、実質的支配者(Beneficial Owner)の詳細を含む包括的なKYC書類の提出、およびSEBIのKYC/AML基準への準拠が求められます。なお、これらの要件は通常、インド居住者、非居住インド人および海外インド市民には適用されません。 - 規制上の報告義務
FPIは、インドの証券(地方債を含む)への投資ポジションおよび関連情報を、保管銀行(カストディアン)を通じて、RBIおよび/またはSEBIに対し、適用される規制に定められた書式および期限に従って報告しなければなりません。 - FATCAおよびCRS
実質的支配者に米国人またはその他の報告対象者が含まれる外国投資家は、外国口座税務コンプライアンス法(Foreign Account Tax Compliance Act:FATCA)および多国間当局間協定(Multilateral Competent Authority Agreement)に基づきインドが採用した共通報告基準(Common Reporting Standard:CRS)の適用を受けます。保管銀行およびDDPは、関連する自己申告情報を収集し、必要に応じて関係当局へ報告します。 - 実質的支配者の開示
FPIは、SEBIのKYC枠組みに定める所定の規制上の閾値を超える所有権または支配権を有する場合、最終的な実質的支配者(Ultimate Beneficial Owner)を特定し、開示しなければなりません。 - 譲渡所得およびFPI収益の送金
登録されたFPIによる地方債の売却または償還による収益、ならびに適用されるTDS控除後の譲渡所得は、適用される規制上の上限がある場合には、その範囲内で、公認ディーラー銀行経路を通じて自由に送金することができます。特に国境をまたぐ租税条約上の取扱いが関係する場合または複数国にまたがる組織構造が関連する場合には、送金前に税務およびFEMAコンプライアンスの専門家に相談することを推奨します。
Q20. 発行地方自治体による債務不履行が発生した場合、債券保有者にはどのような救済手段および保護措置が利用可能ですか?
支払不履行または重大な契約違反が発生した場合、以下の保護措置および救済手段が利用可能です。
- 社債受託者(Debenture Trustee)による執行
DTは、すべての債券保有者を代理して集団的に措置を講じる権限を有しており、これには、信託証書(Trust Deed)の執行、エスクロー/SPM(構造化支払メカニズム)に基づく措置の実施、債券保有者集会の招集、ならびに規制当局および政府機関への申入れが含まれます。DTはILMDS規則に基づき、デフォルト発生時には迅速な是正措置を講じる義務を負います。 - エスクロー/SPM(構造化支払メカニズム)
債務返済に必要な資金は、先取特権の設定されていないエスクロー口座(no-lien escrow account)を通じて管理されます。支払不履行が発生した場合、DTは当該エスクロー口座内の資金について、契約上および法令上認められる範囲で執行措置を講じることができます。 - SEBIによる規制上の措置
SEBIは、発行体に対して必要な是正指示を発出し、資本市場へのアクセスを制限し、またはILMDS規則に基づく義務の履行を求めることができます。 - 限界(倒産・破産法の適用除外)
企業発行体とは異なり、市法人(Municipal Corporations)は2016年倒産・破産法(Insolvency and Bankruptcy Code, 2016)の適用対象外です。インドには地方自治体を対象とした独立した法定の倒産処理または債務再編の枠組みは存在しません。したがって、債券保有者の請求権の実現は、主として契約上および規制上の救済手段に依拠することとなり、公共資産または地方自治体資産の差押え・強制執行には実務上および法的な制約があります。これはインドの地方債市場における構造的な課題として認識されているものであり、投資家は投資判断に際して重要なリスク要因として慎重に評価する必要があります。
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